オオカミの呼ぶ声 番外編SLK 第2話  SLK2 いじめ 1

よく見る話だった。
スザクが最近よく見ている小学校を舞台にしたテレビのドラマや、玉城が面白いからと持ってきた少年向けのコミックスでも目にしたので、やはりこれは日本ではありふれた光景なのだろうと思いながらも、善悪で言うならば悪と取れるこの行為をよく恥ずかしげも無く行えるものだと呆れてしまい、思わずため息を吐いた。
彼らはいつも、戦隊ヒーローの話や、正義は勝つというアニメやコミックスの話をし、その主人公に憧れ、いわゆるごっこ遊びもしているはずなのに、実際にやる事はその主人公が嫌い、否定し、裁く悪なのだから、呆れてしまう。
平然としている僕の態度が気に入らなかったのだろう、ますます不愉快気に顔をゆがめ、彼らは僕を睨みつけてきた。

「なんだその、俺たちを馬鹿にしたような態度は!」
「お前、ちゃんと日本語解ってるんだよな?ナニイッテルカワカリマセ~ンってのは無しだからな!」
「何か言ったらどうなんだよ!転校生!!」

何かと言われても、もう戻ってもいいか?しか言う事は無いのだが、それを言えば火に油を注ぐ事は目に見えていて、さてどうしようかと、僕はこの状況を分析し始めた。
ここは体育倉庫の中で、いわゆる虐めの現場に僕は居る。
虐められているのが僕、虐めているのが目の前にいる三人。
いずれこうなるとは思っていたが、予想より遅かったなと、僕は彼らに気づかれないよう再びため息を吐いた。
予想通りというべきか、犬神で土地神のスザクは子供たちからは畏怖よりも羨望の眼差しで見られており、何よりも神様と友達になれると言う魅力は絶大らしい。
そのため、子供たちは僕が傍に居ない時は、我先にとスザクにと話しかけ、仲良くなろうと自己アピールを繰り返していた。今もきっとスザクの周りには人だかりができ、今日学校が終わってから一緒に遊ぼうと、約束を取り付けている事だろう。
初日に気づいた事だが、カレンも非常に人気者が高い。
だが、運動神経がよすぎるカレンは遊び相手が同年代だと物足りないため、同年代の子供たちと走り回って遊ぶという事が元々少なかった。だが、スザクが一緒ならその問題も解決されるため、スザクが行くなら行くと返事をするようになった。だから子どもたちはスザクとカレンの二人と遊ぶため、僕が居ない間に約束を取り付けようとする。
どうして僕が居ない時かと言えば、僕は外で走り回る事を得意とせず、更には無理をして熱を出した事もあるため、一緒に遊ぼうと誘われても断ってしまうからだ。
それでなくても家でスザクの相手をするだけで疲れると言うのに、学校が終わった後も走り回るなんて考えられない。
そして僕が断ればスザクも「なら行かない」と断るし、そうなるとカレンも「じゃあスザクとルルーシュの家で遊ぶから私も行かない」と断ってしまう。
結果、僕が二人を独占する形となってしまうのだ。
それが彼らには気に入らない。
だから僕の居ない隙に約束を取り付けようとする。
この三人は、その僕の居ない隙を作る役割もあるわけだ。
それだけではなく、僕が外国人の転校生で、スザクと一番仲がいいという事も理由らしい。そんな事、僕に文句を言われても仕方ないのに、本当に迷惑な話だ。
時間にして数秒、僕が返事をしない事にいら立ったらしい一人が、僕の胸倉をつかみ上げてきた。

「聞いてるのか!?」
「聞いている。それで?僕に一体どうしろというんだ?」

文句ばかり言って、自分たちの希望を何も示さないため、僕はそう口にした。
すると、三人は、え?と声を出した後口をつぐみ、互いに視線を交わし合っていた。
成程、考えていなかったのか。
それだけはよく解った。

「えーと、ああ、そうだ。あまりスザクと一緒に居るな!お前が居ると、スザクだってカレンちゃんだって思いっきり遊べなくてつまらないだろう」
「そうだそうだ!ルルーシュは本を読むのが好きなんだろ?それなら一人で帰って一人で読んでればいいじゃん、スザクまで巻き込むなよ!」
「お前のせいでみんな二人と遊べないんだぞ!少しは考えろよ!」

成程、全部僕が悪いわけか。
どうやら彼らの中では、僕が悪で、その僕を退治する正義が彼らのようだ。

「いいな、今日からお前は一人で帰れ!今日からスザクとカレンさんは僕らと帰るし、僕らと遊ぶからな」

名案だと、三人は笑顔で頷きあいながらそう口にした。
ここで否定しても、更に煩く言われるだけだ。
それに昨日は日曜だからと朝からあの二人に川釣りに連れていかれて、正直家でゆっくりしたいとは思っていた所だ。5月になったとはいえ、まだ肌寒く、体力を根こそぎ持って行かれた気もする。
元々あの二人の体力に僕はついていけないし、僕以外の人間と仲良くなる事はスザクにも良いことだ。外で遊びたい、走り回りたいと思う者同士が一緒に遊ぶのが一番楽しいだろう。
僕はそこまで考えてから、了承を口にした。
勝ち誇った笑みを浮かべ、まるでこちらを見下すような視線を向ける三人の後ろを歩き教室に戻ると、僕の姿に気づいたスザクが駆け寄ってきた。
楽しげなその表情に思わず安堵する。
人間嫌いの彼は、過去の事を一先ず忘れ、今を精いっぱい楽しんでいるようだった。

「どこ行ってたんだルルーシュ」
「ちょっと用があったんだ。大したことじゃないよ」
「そうか?それならいいけど、いきなり居なくなるなよな。声ぐらいかけて行けよ」
「ごめん、今度からそうするよ」

そう謝った時、チャイムが鳴り皆自分の席に戻って行った。




授業が終わった時に言われた言葉に、一瞬自分の耳を疑った。

「だから、僕は先に帰る。昨日の釣りで疲れたのか少し調子が悪いんだ」
「は!?そういう事は先に言えよ!また熱出したらどうするんだ!!」

そう言えば、昨日はかなり無理をさせた気もする。
体力の無いルルーシュを連れまわした自覚はあり、思わず耳を伏せると、すぐにその白い手をのばされ、髪をぐしゃぐしゃとかき回された。
おかげで耳はすぐにピンと立つが、もう少し優しく撫でられないのかよと、手櫛で乱れた髪を直しながら思わず睨みつけると、女の子にも負けないほど可愛らしいその顔で笑うからそれ以上文句は言えなくなった。
顔色は悪くなさそうだし、熱も無さそうなんだが、人間の子供、特にルルーシュはどうも体が弱いので少しの体調不良が大きな病を連れてくるかもしれない。
そこまで考えて、余計に俺は不安になった。

「朝は大丈夫だったんだけど、だんだん辛くなってきたんだよ。だから僕はこのまま帰って休むから、スザクはカレンと帰ってくれないか」
「何言ってんだよ、俺も一緒に帰る」
「一人で大丈夫だよ。それに君は帰るときに一緒に遊ぶ約束を彼らとしたんだろう?約束は守らないと駄目だ」

確かに、ルルーシュが休み時間居なかった時に、クラスの子たちと帰りに遊ぶ約束をしたし、その事はルルーシュにも話していたけど。遊ぶ約束などまたすればいい話だ。

「だけど具合悪いんだろ?」
「そうよ、倒れたらどうするのよ」

心配そうな顔でカレンもそう言ったが、ルルーシュは首を縦に振らない。

「遊ぶのは無理だけど、帰るだけなら何も問題は無いよ。ほら、スザクとカレンのかばんも持って帰ってやるから、二人は僕の分も遊んできたらいい」
「でも・・・」

眉尻を下げ心配そうにカレンが言うが、ルルーシュは俺とカレンのかばんを手にすると「暗くなる前には帰るんだよ」と、言って一人で教室を出て行ってしまった。
ああなったルルーシュは引かない。
無理に着いていけばきっと怒る。

「大丈夫だよスザクもカレンちゃんも心配し過ぎだって。ルルーシュだってああ言ってくれたんだから遊ぼう!」
「そうだよ、遊ぼ!何しようか」
「何がいいかな?ねえスザクとカレンは何で遊びたい?」

ルルーシュが居なくなると、クラスの子たちが俺とカレンを取り囲み、口々にそう言ってきて、俺たちは手をひかれながら学校の外へ出た。




「おかえりスザク。神域に寄ってから来たのか?」

てっきり埃まみれで帰ってくるかと思ったのに、朝と変わらず綺麗なままだったため、僕はそう尋ねた。

「よく解るな。走り回ったら汚れたから、ちょっと寄ってきた」

スザクの神域で聖域でもある枢木神社と枢木の杜は、スザクの傷をいやし、その身の穢れを浄化する効果がある。だからその体についた汚れも、衣服のほころびでさえ、ほんの数分で消え去るのだ。短時間で清潔になり、更には空腹も癒せるというのだから、その効果は素直に羨ましいと思う。

「寝てなくて大丈夫なのか?」
「そこまで悪くは無いよ。遊ぶ体力が無いだけだから。心配させてしまったか?」
「別に心配はしてないけど・・・」

口ごもりながらそう言われると、心配していましたと言ってるのと何も変わらない。
本当は体調不良でも何でもないのに、心配をかけてしまった事を反省し、明日からはどんな手を使うか考えながら夕食の用意を始めた。




「聞いてないぞ俺!」
「すまないスザク、言い忘れていた」
「いい忘れって、ルルーシュが?」

授業が終わり、皆が帰宅準備を始めたので、ルルーシュに今日は皆とグラウンドで野球をするのだと伝えると、図書館に行く約束をしていると言ってきた。
その上約束を忘れるなんてルルーシュらしくない発言。
明らかに不貞腐れているスザクと、淡々と、まるで事務処理のように語るルルーシュを見ながら、何かおかしいわね。と、女の勘というものが働いた。
でも、ここで言い合いをしてもルルーシュは引かないだろうし、スザクも既に遊ぶ約束をした手前引けない。
約束を破ればルルーシュに怒られてしまうから余計に。

「わかった。ルルーシュも約束してるなら仕方ないわよね。スザク、今日もルルーシュとは別々に帰りましょ?」

そう、今日も。
今までにない事が二日連続。
うん、なんか気になるわね。

「・・・ルルーシュ・・・」

スザクが、どうしても駄目なのかと聞いてもルルーシュは折れなかった。
いつもならスザクに甘いルルーシュは、スザクがその表情をしたら簡単に折れるのに。
それほど大事な約束なのかしらね?

「ごめんスザク、約束は守らないと。僕は用が終わったら家に帰るから、君も暗くなる前には帰ってくるんだよ?」

本当にすまないと思っているのだろう、ルルーシュは困ったような、それでいて絶対に引かないという意思も見える笑みを乗せると、私とスザクのかばんも手に持ち、一人教室を後にした。そして昨日同様クラスのみんなに囲まれて、私と、不貞腐れたスザクはグラウンドに出た。

1話
3話